• テキストサイズ

キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第6章 episode.6  キスなんて





「シュウさんって、いつもこんなに面倒見がいいっていうか、優しいんですか…?」
「…いや。こんなことは滅多にしないな」
「じゃあ…なんで…」
「………知らない方がいい気もするんだがな、お互いの為に…。」

シュウさんは呟くようにそう言った後…
モゾ、と少し動いた。

彼のお顔は私の頭上にあるので…何をされたかわからないけれど。
柔らかい何かが、私の頭にフニっと触れたような感覚がした後…体を離した。

…なんだったんだろう?

え?今何しました?と聞こうとしたけれど。

離れていく彼の表情がようやく見えたと思ったら…シュウさんが今までにないお顔をしていたものだから。
思わず私は声が出なかった。

…彼の特徴的なグリーンの瞳が、戸惑ったように揺れていた。

今まで大人の余裕満点で、多少のことでは慌てたり狼狽えたりなんてしなかったシュウさんが…


瞳を見ただけでわかるくらいに…動揺していた。


「シュウさん…?」

するりと離れていく彼に向かって、声をかけたけれど。
シュウさんは答えることなく、サッと私から視線を逸らして。
そして、路上駐車をしているアンソニーさんの車に速足で向かって行った。

何も言わずに、アンソニーさんの車に乗り込んで…


そのまま…
…行って…しまった。



行ってくる、とか、留守番よろしく、とか…
去り際に何か一言はあるだろうと思っていたけれど…
何もなくて。

…シュウさん…最後、なんだかいつもと違っていた。
雰囲気も、表情も。

なんだったんだろう…?
てか、あのフニっとした感触はなんだったんだろう?
ふと、自分の頭上に手を伸ばして。
あの感触がした場所に触れて、首を傾げてしばらく考え込んでしまった。

…結局わからなかったけれど。
私はその後しばらく、ずっとそのことを考えながら過ごした。



/ 81ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp