第6章 episode.6 キスなんて
私…そんなに不安そうな顔をしていたのかな…。
笑顔を作ったつもりだったんだけど…どうやらうまくできていなかったみたいね。
シュウさんは、私の背に回した左手をゆっくりと動かして。
まるで泣いている子供をなだめるみたいに…私の背を撫ぜた。
きっと、シュウさんは3人兄弟の長男と言っていたし。普段から年下の子への対応に慣れていて。
いつも妹さんにするような気持ちで、こうして優しく抱きしめてくれたに違いない。
まあ、そうね。どうみても私は随分年下だろうし。
妹さんに重ねているのかもしれないね。
だから、私もお兄ちゃんに少し甘えるような気持ちで、されるがまま…彼の腕の中に収まっていた。
なにより…シュウさんの体温はとても落ち着く。
それに、背の高い彼に抱きしめられていると…丁度彼の胸付近に耳元が当るから。トクン、トクン…と、一定のリズムで心臓の音が聞こえる。それもまた…不思議と安心するような、落ち着く音で。
思わず、彼の優しい温かさに体重を預けた。
「シュウさん…ごめんなさい、迷惑ばかり…心配ばかりかけて…」
「…別に、迷惑なんて思っていないさ」
…シュウさんはそう言ってくれるけれど。
でも…きっと彼にも、自分のペースで過ごしてきた日常があっただろうに。
私が転がり込んだことで、沢山ペースを乱されて…きっと困っているに違いないのに。
こんなに心配して、優しくしてくれて。
出会ったばかりの見知らぬ人に…いくら妹さんと重ね合わせているとはいえ…ここまでできるだろうか。
私だったらできない…というか、普通は殆どの人間がこんなに手を差し伸べたりしないと思う。
なんで…だろう…
「シュウさん、なんでこんなに優しくしてくれるんですか…」
つい、気になって声が漏れた。
すると、頭上から「んー…」と少し悩むような声が聞こえて。
「…なんでだろうな。俺にもわからん」
そう、言われた。
わ、わからんって…。
妹みたいに思っているから…じゃないの?
普段からこういう人…ってワケじゃないのかな?