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キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第6章 episode.6  キスなんて





玄関を出ていく2人を見送りに行って…
アンソニーさんが先に玄関を出て、車に向かっていった。

そして、シュウさんは玄関を出る前に振り返って私を見る。


「すまないが今夜は帰れないと思う」

ちょっと心配そうな眼差しで言われた。
きっとそうさせてしまったのは、こちらの言葉も話せず、1人では近所に食材を買いに行くのがやっとな状況な上、彼がいないと夜も眠れない…私のせい。

心配かけたくない…

「忙しいんですね」
「すまないな」
「いえいえ、シュウさんはお仕事頑張ってください。私のことは気になさらず」

大丈夫。大人だもん。
私もう、27歳だよ?しっかりしなくちゃ…
うん。きっと大丈夫…。

自分に言い聞かせながら、私は笑顔を作った。
シュウさんに、これ以上心配をかけたくなくて。

でも、私が笑顔で見送ったにも関わらず…

「………。」

シュウさんは、相変わらず心配そうな表情のまま、ジッと私を見つめてきた。

…なに?私もしかしてさっき、変なこと言った?
いーや、言ってないと思う。
なんて、心の中で考えながら首を傾げた時だった。

スッと彼は私に左手を伸ばしてきて。
そのまま、私の背に回した。
近付いてくるシュウさんの体。

それは一瞬の事だった。

ぽふ、と音が鳴って。
私の体は温かい体温に包まれる。


抱きしめられている、と認識するまで…私は数秒間固まってしまった。

「へ…?」



引き寄せられた体は自然と彼に寄りかかる。
シュウさんの服のせいで、視界が真っ黒だった。

胸板、厚っ…それから、腕…筋肉すごいな…
ガッシリとした腕の感触に、胸がドクドクと音を立てた。

…なに?
なんでシュウさんは急に私を抱きしめたの?
何が起きてるの?
全く意味がわからない状況に、体を強張らせていたけれど。

「えっと、あの…シュウ…さん…?」

この意味のわからない状況に耐えかねて、思わず声をかけた。



「きみが不安そうな顔をして無理に笑うから」

頭上から、相変わらず低くて独特な声が聞こえる。

…えっと。
つまり、不安な気持ちを隠しきれていたなかった私が心配で…思わず抱きしめたってこと?


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