第6章 episode.6 キスなんて
そう言えば…昨日シュウさんにお出かけに連れて行ってもらった時に、最後に服を買うために寄った大型のショッピング施設で…
1か所、服屋以外に雑貨屋さんも寄ったのだけど。
ひとつだけ、服以外にもお買い物をしたんだよね。
寝室に置いてある、自分のスーツケースに一旦仕舞ったはず。と思って寝室に向かった。
そして、ゴソゴソと荷物を漁って。
取り出したのは、スーツケースの形をした手のひらサイズの置物。
真っ赤なスーツケースが、私のとよく似ていて可愛いな〜と思って。用途なんて特に考えずに買ったんだけど。
「シュウさんのうち、何もないから置いておこ」
殺風景なお部屋にきっと映えるんじゃないかな?
リビングに戻って、TV台の端っこにチョコンと置いてみた。
暗い色味の家具が多く、物も少なくて殺風景なお部屋に、一際映える赤が置かれて。
うん。なかなかいい感じ。
…でも、シュウさんはこう言うのイヤだったらどうしよう。
殺風景なお部屋がいいから、敢えて何もなかったのだとしたら…勝手なことしたんだろうか?やっぱり片付けようかな。
いやでも、シュウさんここにいる間は書斎以外は好きにしていいって言ってくれたし。
小さな置物ひとつくらい、気にしないよね?
そんな気持ちが私の中で葛藤して、スーツケースの置物をやっぱり置くのはやめようかと引っ込めたり、置いたりを何度か繰り返した。
なんて、やっている間に…
どうやらシュウさん達の打ち合わせが終わったらしい。
書斎の方から2人が話しながら歩いてくる音がする。
…英語だから何を話しているかわからないけど。
2人はリビングに姿を見せて。
「ユリ、少し出てくる。」
シュウさんはそう言った。
よく見たら、シュウさんもアンソニーさんも、黒くて細長いバックを背負っていて。仕事に行くんだろうことがわかる。
「…今からお仕事ですか?」
「ああ。悪いが、食器はシンクに下げとくから、あと頼んでいいか」
「あ、はい…」
シュウさんはキッチンのシンクに、食べ終えた2人分の食器を置いて。
そしてアンソニーさんと2人連れ立って玄関に向かっていく。
私はとりあえず、トコトコと後ろをついて、お見送りに向かった。