第6章 episode.6 キスなんて
「すみません、大丈夫です。シュウさんのおかげでちゃんと寝れましたよ。ちょっと考え事をしていただけで」
そう言いながら、するりと彼の手を避けた。
偶然名前を知ってから、何故だかもっと知りたい欲が出て…ずっとあなたのことを考えていた、だなんて言えなくて…恥ずかしくて。
目を見て話せそうにない。
「…そうか。それならいいんだが。」
何を考えていたか…までは聞かれなかった。
思わずホッと息をつく。
「突然の来客ですまないな」
「いえいえ。私は大丈夫ですよ。」
そう返しながら、コーヒーをトレーに乗せていたら、シュウさんがポン、と私の頭を撫でる。
「コーヒーありがとう。…悪いが軽食を作ってもらえるか?アンソニーが腹が減ったと言い出してな。まぁ俺もなんだが」
「シュウさん夜勤から帰ってから食事もせず寝ちゃいましたもんね。サンドイッチとかでいいですか?」
「ああ。簡単でいい。頼む」
「わかりました」
シュウさんは私の頭を撫でていた指先で、そのまま髪をスルリととくように撫でてから…。
その手をコーヒーの乗ったトレーへ伸ばして。
トレーを手に、書斎の方へ向かっていった。
打ち合わせは、私が入ってはいけないと言われた書斎でするらしい。
…お仕事の話だから、聞かれたくないってことなんだろうけど。
「…別に聞いても言葉わからないのに」
なんでだろう。
別に今まで気にもならなかったのに。
隠し事をされているみたいで急に心がチクリとした。
「…サンドイッチ作ろ」
少しモヤっとした心を誤魔化すように、慌ててエプロンをつけて。
気持ちを切り替えて食事を作った。