第6章 episode.6 キスなんて
「しゅういち…って、日本人の名よね…」
“シュウ”までは外国の名でも通る…と思うけど。
“しゅういち”なんて響きはおそらく日本人しかいないよね。
外国の血が流れてそうな掘りの深いお顔立ちだし、体つきも日本人離れしたガッシリとした骨格なので…
外国人だけど、仕事かなんかの関係で日本に縁があるから、ただ日本語が話せる人ってだけかと思ってた…
でも、違った…。
たぶん。
日本人の血が流れている人か、日本に深い縁がある人なのかもしれない。
ハーフ、なのかな…やっぱり。
どこの国の方なんだろう…
すごく…気になる。
気になりすぎて…ついついコーヒーを淹れながらボーッとしてしまう。
そんな状況だった。
「…しゅういち…さん、か…。」
聞いてもいいかな?
シュウさんに、日本の方なんですか?とか…
どんな字を書くんですか?と…。
あとで…アンソニーさんが帰って落ち着いたら、この話をしてもいいだろうか。
シュウさんの個人的なことにはあまり首を突っ込まないようにしていたし、知らなくてもいいことは無理に干渉しないようにしていた。
だって…たった10日間の関係だし。
だけど、なんでだろう。
急に…彼のことを知りたくなって…
うーん…
「溢れるぞ」
淹れたてのコーヒーを、コーヒーマシンからカップに注いでいた時にふと後ろから低い声が聞こえた。
私は急いで手元を見る。
あと少しで並々一杯になりそうだったけど、その前に慌てて手を止めた。
「わっ…」
どうにか、手で持って運べる程度の量で止めることができた…
「危なかったな。気をつけろ」
後ろから声をかけてきていたのは、身支度を済ませてすっかりいつも通りの服装になった、シュウさんだった。
「…すみません」
「どうした?ボーッとして。あまり眠れなかったか?」
そう言って、シュウさんは私の頬に手を伸ばしてきた。
スッと…優しく頬に被った髪を避けられる。
おそらく私の顔色を確認したんだと思う…。
相変わらずスキンシップ?というか…距離感はアメリカンな感じよね。
…やっぱりそう言うところは日本人には見えない。
余計にシュウさんが何者なのかわからない。