第5章 episode.5 悪夢に勝てる日は来るのか
アンソニーは、何を思ったのかにやりと微笑んで。
そして俺の肩に手を置いて、コソッと小さな声で耳打ちしてきた。
「隠さなくてもいいんだぜ、シュウ。やることはやってんだろ?日本人の女の子、カワイイよなぁ」
プツッ。
「…アンソニー、お前…今すぐここを出ていけ」
「おっと!マジか!悪いなシュウ揶揄いすぎた。お前がそんなにピュアで奥手とは」
…こいつ、ふざけやがって…。
俺を怒らせる天才か?
「そんなんじゃないと言ったろ、いいからさっさと出ていけ」
ドン、と彼の背を叩いて玄関の方へ追いやったが…。
「待て待て。本当に悪かった。ここへ来たのは子猫ちゃんが気になってたのも、まぁ多少はあるが…本題はそっちじゃない」
仕事の話だ。
そう言ってアンソニーは今までのおちゃらけた態度をコロリと変えて。真剣な顔つきに変わった。
「…だったら最初からそう言え。…着替えてくるから待っていろ。それと…あの子の前ではその物騒なブツは見せないでくれ」
そう言って、俺はアンソニーの背にあるライフルバックに目をやった。
「ああ。わかった。子猫ちゃん、お前の仕事のことは知らないんだな」
「仕事どころか本名すら名乗ってない。…が。お前…ポロッと言いやがって」
「あ!悪い悪い。言葉が通じなかったんで、お前と知り合いだってどう言えば伝わるかと思ってつい。それでも怪しまれたんで、ここの鍵まで出して見せたんだぜ?」
こいつ…本当にFBIか?
全く能天気な野郎だ…。
おかげで名前を知られてしまった。
…まあ、フルネームではないが。
俺は着替える為寝室に戻り、ついでにユリに少し仕事の打ち合わせをすることを伝えた。
それから、アンソニーにはお灸を据えといてやったから安心していい、とも。
すると、彼女はホッとしたように笑顔を見せて、コーヒーを淹れにキッチンに向かっていった。