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キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第5章 episode.5  悪夢に勝てる日は来るのか





俺は、勢いよくリビングに突入した。


「おい…」

開口一番、一番低い声が出る。

「お、シュウ!噂の子猫ちゃんに会いに来たぜ!」

ソファから立ち上がり、陽気に声をかけてくるのは、やはりアンソニー。



「アンソニー。お前に会わせてやるつもりはないと言ったろ」

想像以上に低い声が出て、怒りの感情が滲み出ているのが自分でもよくわかった。

「おっと。シュウ。そんなに怒るなって」
「…怒るに決まっているだろ。テメェ…あいつに何をした」
「…あいつ?」

ポカン、と首を傾げるアンソニーに、プツリと堪忍袋の尾が切れて。
つい胸ぐらを掴み掛かった。

「…しらばっくれるな。手を掴んで好き勝手触りやがって…」
「ああ!子猫ちゃんな!違うって、誤解だ!そのおっかない手を離してくれ!」

ギロリと敢えて鋭い視線で睨みつけて、俺は手を離さなかった。

「ストップ!俺は何もしちゃいない!」
「手を掴んでジロジロ見たと聞いたが」

アンソニーはウッと言葉を詰まらせた。

…ユリの言っていたことは本当だったようだな。
俺は掴み上げた胸ぐらをグッと更に押す。
すると、ヤツは観念したように両手を上げた。

「たっ、ただ…、シュウ、お前を射止めた女がどれほどセクシーな子か気になって見に来てみたら…とんでもなくキュートな子が出てきたもんで、びっくりしてつい…」

お前、好みが随分変わったな…驚いて上から下までつい見てしまっただけなんだ…と咳き込みながら続けた。

嘘じゃなさそうだな…。

本当に俺の女だと思い込んで、今までの女とタイプが違いすぎたから、驚いてのことだったらしい。
俺はようやくアンソニーから手を離した。




「…別に俺の女じゃない」

ついでに誤解を解いておく。

「ん?ここに連れ込んでるんだろ?」
「…ちょっとした日本人の知り合いで、宿がないというからしばらく置いてやってるだけだ」
「そいつは驚いた。…お前そんな優しい男だったか?」
「うるさい。別にいいだろう」



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