第5章 episode.5 悪夢に勝てる日は来るのか
「勝手に入ってきたやつは、どんな外見だ?」
「えっと…金髪でスラッと背が高くて…あ!シュウさんと同じような長細くて黒いカバンを背負ってました」
…アンソニー。
ヤツだ。あいつしかいない。
その背に背負っているのは恐らくライフルバックだろう。
「はあー…。」
思わず深いため息をついた。
あいつは、俺がアメリカを離れている間ここの管理を頼んでいるので、唯一ここの合鍵を持っている人物だ。
恐らく、俺がここに女を連れ込んでいると知って「会わせてくれ、見てみたい。」なんて言っていたから…。
興味本位で来てみたという感じだろう。
「…悪い、恐らく仕事仲間だ」
「そうなんですか…よかった。見知らぬ人を入れてしまったのではないかとちょっと不安になりまして…」
ほっと息をついた彼女の頭をポン、と撫でてから俺は起き上がる。
「着替えて支度をしたら俺もすぐに向かうから。言葉が通じなくて不安なところ悪いがコーヒーでも出しておいてくれ」
そう伝えながら、ルームウエアを着替えようとクローゼットに手を伸ばしたが。
普段の彼女なら聞き分けよく、すぐに「わかりました!」と言ってキッチンに向かっていきそうだが…。
予想に反して、不安そうな顔で俯いてしまった。
「…どうした。やはり知らないやつは怖いか」
「……えっと。あの…じ、実は。」
「ん?」
ユリは戸惑った様子で、遠慮がちに言った。
「さっき…急に腕を掴まれて、全身上から下までグルッと回しながら見られたり、なんだか私のことジロジロ見てきて…ちょっと…」
…あいつ。
何してくれている。
「ユリ、ここから出るなよ」
俺は勢いのまま、着替えもせずにベッドルームを出た。
何故だか分からないが、無性に腹が立った。
何故許せないのかわからないまま、ズカズカと足音を立ててリビングに向かう。