第5章 episode.5 悪夢に勝てる日は来るのか
「……さん、……シュウさんっ…」
…ん?
「…シュウさん!」
これは夢か?
誰だ…声がする。
俺の名を呼ぶ声が…
「シュウさん、起きてっ…」
この声は確か…
ユリ?
「…シュウさんってば!」
肩を揺すられている…。
そして、なかなか起きない俺に焦ったくなったかのように、彼女はすうッと息を吸い込んで。
そして驚くべくことを耳元で囁いた。
「しゅ・う・い・ち…さん!」
その声に、思わずパッと目を開いた。
そして、俺を覗き込んでいる顔を見上げる。
すぐにパチリと目が合って…
「おはようございます。というか、時間的にはもうお昼なので…こんにちは、です。しゅういち…さん?」
そう…彼女は言った。
「…なぜ」
知っている?
俺の名を。
俺は、最初の自己紹介の際に、彼女にきちんと名乗っていない。
たった10日の付き合いだし、まだ素性も知れない彼女に個人情報を教えるつもりがなかったから。
俺は「シュウ」としか名乗っていなかったはずだが…。
「えっと。シュウさんの名前なんで知ってるのかって顔してますね」
俺は目をパチクリと瞬かせてから、小さく頷く。
「それはですね。えっと……って!そんなことより。」
彼女は慌てたような顔で、話を切り替えた。
「大変なんです。シュウさん…」
「どうした」
「知らない人が訪ねてきています!」
「知らない人…?」
俺はようやくベッドから起き上がって周囲を見渡した。
ベッドルームには誰もいないようだが…
確かに、リビングの方から何者かの気配がする…ような。
「なんかですね、シュウさんのことを知っているっぽい感じで…英語でずっと話しかけてくるので、はっきりとはわからなくて戸惑っていたら、勝手に上がり込んできちゃって…」
「…そいつが俺の名を言ったのか」
「はい…それから、何故かここの合鍵を持ってました…だから、私が開けなくてもどのみち入ってきていたと思いますけど…万が一、変な人だったらどうしよう…」
ここの合鍵を持っている人物…か。