第5章 episode.5 悪夢に勝てる日は来るのか
どれくらい経っただろう。
1分と経たないうちに…髪を撫でているうちに。
「すぅ…すぅ…」
あっという間にユリは寝息を立て始めた。
俺はつい呟く。
「…勝てる日はくるのか」
悪夢に。
君が悪夢に勝てる日はいつ来るのか。
おそらく、大切な恋人に一方的に振られたショックでこうなっているんだろうし。
解決するには時間がかかることで、今すぐにどうにかなるものでもないのだろう。
急かすものでもない。
それはわかっている。
でもな。俺はいつまでも君の側にはいない。
…いてやれないんだぞ。
この10日間が終わったら、別れだ。
それまでに…
最低な元彼氏のことなんか忘れてしまえ。
嫌なこと全て忘れて、過去を笑えるようになって日本に戻ってもらわないと。
でないと…
「心配だろうが…」
つい、こぼれ落ちる本音に、ついため息が漏れた。
情がわいている。
俺らしくもない…
そう…期間限定の同居人。
10日経ったら、君とは別れだというのに。
もう数日経ってしまったから、実際はあと何日だろうか。
残りの数日なんてあっという間だろう。
そして…
日本に戻ったら。
君は俺のことも忘れてしまうんだろうか
「………。」
ふいに、頭に浮かんだ言葉に、グッと胸が締め付けられるような気がした。
…なんだ。
なんなんだ、これは。
いや、いい。
今は考えなくていい。
…この先を考えてはいけない気がする。
今はただ、寝よう。
慌てて俺は、自分の感情を誤魔化すように瞼を閉じた。