第5章 episode.5 悪夢に勝てる日は来るのか
その日の夜。
足音を立てないよう、気配を消して。
ゆっくりと見張り中のアンソニーのもとに向かった。
「どうだ」
建物の影に隠れて、標的が潜んでいる建物をじっと見つめている彼は、振り返らずに答える。
「ダメだな。今日も動かない」
「そうか。」
「作戦を練り直した方が良さそうだな…」
「ああ…そうだな。今夜で動かなければ策を考えよう」
「わかった」
聞き出したい情報も多いため、できれば生かしたまま捉えたい標的。なのでヤツが出てきたタイミングで近くで張らせている俺たちの仲間に取り押さえさせる予定でいる。
その際、何かあった時のための補助的存在が、俺たちスナイパーの役目。…と言うわけだが。
なかなか標的に動きがないと、こちらは退屈でたまらない役回り。
今夜も長くなるだろう。思わず俺はふう、と息をついた。
「シュウ、そういえば」
「なんだ」
アンソニーが撤収の準備をしながら小声で声を掛けてくる。
「子猫ちゃんってどんな子なんだ?」
「…何故」
「お前が熱心になってる女だぞ?気になるじゃないか。会わせてくれよ」
ニヤつきながら、そんなことを言われた。
「…嫌だ。」
「なんだよ、いいじゃないか少しくらい」
こいつ…面白がっているな。
絶対に会わせてやるものか。
というか、熱心とはどういうことだ。別に俺にそんなつもりはない…。ただ、困っている人を助けて。そうしたら、たまたま子猫のように懐いてきて、放って置けないようなタイプの子だった。それだけだ。
「それ以外の何ものでもない」
つい、こぼれ落ちた言葉に…アンソニーが首を傾げたが。
早く帰れ、と追い払うように手を振ると…
諦めたように彼は帰って行った。