第5章 episode.5 悪夢に勝てる日は来るのか
「もっと好きなようにしろ。わがままを言ったっていい。君の人生だろ」
全て、考えていなくて。本能的だった。
思ったままに、言葉が勝手に口をついて出てくるようで。自分ながら、抑えが効かない。
「自分を抑えてまで、相手の好みに合わせるのが優しさや愛じゃないぞ。」
「………。」
「好みの服を着ている君を、ありのまま好きだと言ってくれる男がきっといるから。他人の為に自分を見失うな。」
俺のそんな言葉の後、彼女は何も答えなかった。
少し、沈黙が流れる。
おっと…。
少しズカズカと…言いすぎたか?
ハッと気付いた頃には、全て言ってしまった後だった。
…どうしようと彼女の勝手なはずなのにな。
ここまで言うほどの関係でも…ないのにな。
余計なことを言っただろうか…
次になんて言葉をかけようか。
そう思っていた時だった
ぐすん、と小さく泣いているような音が聞こえた。
「…ユリ?泣いているのか」
「すみません…大丈夫です。ただちょっと…こんなふうに言ってくれる人…今までいなくて。はじめてだったので…」
シャーっと、音を立ててカーテンが再び開いた。
相変わらず赤いワンピースを着た彼女が、また姿を見せて。
「私、この服買います。シュウさんのお陰で、お気に入りになりそう」
目元を少し潤ませながら、先程の自信がない姿が嘘かのように、晴れやかに笑っていた。
そっと、そんな彼女の目元に手を伸ばして、溢れそうな涙を指で拭いながら。
「買うのは俺だ」
「え」
「泣かせた詫びだ。贈らせてくれ」
彼女は、また遠慮しようと慌てて口を開いたが。
少し悩んだ素振りを見せた後、ありがとうございます、と笑顔で言った。
その後、何着か彼女の好みの服…ユリ曰く、”シンプルかつ大人っぽい”服を買って。
満足そうに笑う彼女連れて、うちに帰った。