第5章 episode.5 悪夢に勝てる日は来るのか
「シュウさん」
ぼんやりしていたら、いつの間にやら両手に服を持ったユリが目の前に居た。
「ん?…どうした。」
「どっちがいいと思います?」
そう言って、彼女は両手に持った服を掲げる。
よく見れば、同じ形の服で。ニット生地のシンプルなワンピースだった。
色だけが違う。白かベージュか。
「ん。」
似合いそうな白を指差す。
すると、彼女はパーッと笑顔になって。
「ありがとうございます!白にしますっ」
また服の山の中に戻って行った。
俺はずっと服屋の角に立っているだけだったが…なんとなく彼女のそばに行く。
「気に入った服はあったのか」
「はい!このお店、シンプルな服が多くて私好みです!」
ルンルン、と効果音がつきそうだな。
「服、好きなのか」
声をかけながら、なんとなく目の前にかかっている服を見る。
「服が好きっていうか、おしゃれをするのは楽しいなって思います。」
「そうか。」
ごく普通の女性らしい楽しみだな。
やはり彼女は、平和な世界で生きて来たのだろうな。
「ん…?」
ふと、何となく見ていた服の中で、ある1着に目が行く。
思わず手に取った。
「ユリ」
「はい?」
俺の声かけに、振り返った彼女の体に服を当ててみる。
彼女が今日着ている、元彼氏に選んでもらったのだというフリフリのワンピースとは真逆な…タイトなシルエットの、赤いワンピース。
「あっ、これ…」
「どうした?」
「えっと…さっき私もちょっと気にはなったんですけど」
「ほー。買わないのか?」
当ててみたら…結構、赤が合う。
似合うと思うんだがな。
「いや…私にはちょっとハードル高いかな、って。体のラインはっきり出ちゃう服だし…」
「一度着てみればいい」
「へ…?」
すぐさま俺は、近くの店員に声をかける。
試着室へユリと赤いタイトなワンピースを押し込んだ。
試着室の中から、「えっ」とか「絶対似合わない」「恥ずかしいっ」等と聞こえて来て、思わずクスクスと笑ってしまった。