第5章 episode.5 悪夢に勝てる日は来るのか
彼女…ユリがご所望の、ファッションの店が多く入った複合施設にやってきた。
先程までの美術館や静かなカフェと違い、人も多く賑やかな空間で。
あまりこういう場所には来ないので、慣れないな…と思いながらレディース服が多く置いてあるフロアに向かった。
「寄りたい店があれば好きに寄っていいからな」
正直な本音は…
好きな店を回っていいから、俺はどこかで待っている。と言いたいところだったんだが…。
言葉も話せず見ず知らずの場所に、不安そうな表情を見せた彼女を見てしまうとつい。
女の買い物に付き添う、なんてのは柄じゃないんだが…。
渋々だぞ。渋々…。近くを着いて歩くことになった。
「ごめんなさい、せめて私が英語話せたらよかったのに…。退屈ですよね?」
一層不安そうに見上げてくるユリ。
「そんなことはない。セクシーな服を選んでやると言ったろ」
「え…。せ、セクシーなのは、遠慮します…」
「はは」
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しばらく服を選んでいるユリを、店の端で眺めていた。
服を選んでいる彼女は、キラキラと目を輝かせていた。
好みの服を見つけたんだろう。パッと笑顔になったり。かと思えば…どちらにしようかな、と両手に持った服を見比べたりしながら、うーん、と悩むような表情に変わったり。
見ていて飽きない。
可愛いな。
…ん?
「可愛い…?」
心の中に突然湧いて来た感情に、思わず首を傾げた。
好みの女性ではない。なんなら俺は「可愛い」よりも「綺麗」と感じる女を好んできたはずだ。
彼女に対して、特別な感情なんかないはず。…そもそも、あったら同じベッドでなんて寝られないだろう。
下心も湧かないからこそ10日間も家に置いてもいいと思えたんだ。
だが…。2日前に知り合った時には一歳感じなかった感情が振って湧いてきているのは、何だ…。
それに。タバコも吸えない、興味もない服屋でただ待たされている…なんて。普段の俺なら耐えられない状況だというのに。
なぜか楽しそうに服を選んでいるユリを見ているだけで、不思議と退屈していない自分は一体何なんだ。
自分のことながらよくわからなかった。