第4章 episode.4 デート?
大変そうだな…ミュージシャンも。
って、あ。
ミュージシャンっていうのは。
私が勝手にそう思っているだけ。
実際、何の仕事をしているかは一切聞いていない。
でも、私物の少ないシンプルなリビングに、ピアノとギターが置いてあって。
何もない部屋でやけに目立って見えたそれに加え…シュウさんが仕事に行く時に、黒くて大きなケースを背負って出て行ったので。
それが、持ち運べるキーボード的なものに見えて。
勝手にミュージシャンかなぁ?なんて思っていただけなんだけどね。
そんなことはさておき。
「…どこか行きたい場所はあるか」
なんて、シュウさんが言う。
「……え?」
突然、言われたものだから。
フォークを持ったままポカンとしてしまった。
「いや、日中空いてる日なんて今後あるかわからないからな。どこか連れていくよ。折角だしな。」
…やっぱり、めちゃくちゃ優しいよね?シュウさん。
でも、そもそも最初の出会いも、転がり落ちていくスーツケースを優しい彼に止めてもらったところから始まってるしな…
やっぱりめちゃくちゃ良い人だ…
「おい、ユリ。聞いているのか」
「えっ」
おっと、いけない。ボーッとしてた。
「だから、行きたいところはないのかと聞いている」
「あ、えーっと…観光を目的としてここに来ていないので…観光スポットとか、あまり調べてなくって。」
「…じゃあ、この辺りの名所、俺が適当に案内する。それでもいいか」
「え。いいんですか…そんな」
「おい。今遠慮しようとしたな」
言葉を遮られて、おまけにギロっと鋭い瞳に見つめられる。
うう…
「…お、お願いします。」
軽く頭を下げると、シュウさんは満足そうな顔をして。
「それでいい」
と言った。
相変わらず強引な人。
でも、自分1人だったら遠慮して選べなかった道に、グイグイ引っ張ってくれているようでとても心強く感じる。