第3章 episode.3 やさしい世界
今は随分吹っ切れたようだな。
もう…そろそろ。
その話をしてもよさそうか。
「もう、気にしないことにしたのか。昨日の、例の…元、彼氏のこと」
ああ。俺はなんだっていつもストレートにしか言葉が出てこないんだろう。
彼女のように、相手を自分以上に気遣えたら良いんだがな。
生憎、そういうのは下手な性格だ。
彼女は、うーん、と少し悩んだ様な素振りを見せてから。
「…気にしていないと言ったら…嘘になるかも。だって、長年付き合った彼氏ですし。私、彼と結婚して、子供が出来て…。そんな未来なんだと思ってましたよ。昨日まで」
そうだよな…。
それほど思っていたからこそ、一大決心して海外にまで飛び出てきたんだろうしな。
「でも、彼には振られてしまったけれど…それで私の人生が終わる訳じゃないので。だから…折角なら、今を楽しまないとなって思って。未来の自分が、このアメリカにいた10日間を思い出した時に、暗いことばかり思い出したら可哀想じゃないですか。楽しい思い出も作らないと」
アメリカ、楽しかったなあって、笑って言えるように出来るかどうかは…私次第なので。
そう言って、ユリはニコリと笑った。
…前向きに思い続けていれば、きっと何もかもうまくいく。そんな風に思えるくらい、これまで明るい世界で生きてきたんだろうな。
君は太陽のような人間だな。
真っ暗闇をひたすら歩いてきた俺には、眩しく見えた。
「…君が羨ましいな」
「え…?」
「いや、何でもない」
食事は本当に美味しくて。
それから、ユリの波長が合うというか。
丁度良い距離感を保って接してくれる女性は久々だったからか。
一緒にお喋りをしながら食事をするのがいいものだ、と思えた女性は初めてで。
案外、こういう生活も悪くない。そう思っていた。