第3章 episode.3 やさしい世界
思わず声を上げて笑ってしまったが…
ふと、目の前のユリにじっと見つめられていることに気がついた。
「ん?どうした」
首を傾げると、彼女は急にポッと頬を赤らめて。
そして「なんでもない」と言うように首を横に振った。
…なんだったんだ?
と、思いつつ。深くは聞かなかった。
彼女も、これ以上は聞くなと言わんばかりに、慌ててオムライスに手をつけていた。
「うう、やっぱり味がわからない…」
そう、苦々しい表情で言いながら食べていたが。
「そんな味覚がハッキリしない状態でよく、こんなに美味しく作ったな」
「え?っと…とりあえずキッチリ分量計って作っただけですよ?そうすれば、失敗はしないと思います!」
「ほお…そうか。」
…料理を覚えたての沖矢に聞かせてやりたい台詞だな。
思わずふ、と笑みがこぼれる。
するとまた、目の前の彼女が俺のことをじーっと見ていた。
そして、俺と目が合うと、慌てて視線を逸らされる。
「…なんだ?先程から。」
「えっ、なにも…」
「無いわけないだろう。俺の顔に何かついているか?」
「いや…そうじゃなくって…」
「じゃあ何だ」
言おうかどうしようか迷ったように視線を彷徨わせた後、彼女は渋々…といったように口を開いた。
「えっと…シュウさん…結構、表情が…あるんですね…と思って」
「…おい。俺をなんだと思ってたんだ」
「え!あ、そういう意味じゃなくって…なんか、昨日より表情豊かになったというか…あ。でも多分、昨日は私自身の心に余裕がなかったから…そんなにシュウさんのことをちゃんと見てなかっただけ…かも?」
…まあ、確かに。
昨日の君は涙を流して、彼に突然振られたショックで周りなんて見えていないような様子だったしな。