第3章 episode.3 やさしい世界
あえて、知らなくて良いことは詮索してこない。
…日本人は本当に気遣いができるよな、なんて思いながら…ライフルを片付けてリビングに向かった。
そして…目に飛び込んできたのは。
「……おお。」
思わず声が漏れた理由は。
ダイニングに並べられた、クリームソースのオムライスだろうか…。美味しそうな食事もそうだが。
…なんと、俺の席のカトラリーが全て左利きの向きに置かれていたからだった。
確かに…今朝、一緒に食事をしたし。
普段から自然と左手を使っているので…まあ、左利きというのは見たら分かるのかもしれないが。
それをユリは、今まで出会ってきた女のように「うわ~左利きなんだ!」と煽てることもせず。
ただ何も言わずに、俺が使いやすいようにと左利きがとりやすいような置き方をしてくれた。
それは初めての経験で…。
つい、ボンヤリとダイニングを眺めてしまった。
ここまで気遣いが出来る、奥ゆかしい女性は初めてだな…
こんなに良い子を振ってしまったのか。勿体ないことをしたんじゃないか。と…
昨日彼女をコテンパンに振ったのだという、見知らぬ元彼氏に胸の中で呟いた。
ついでに…
メシも美味かった。
ダイニングを囲んで、まず…早く食べてください、と不安げに言ってくるユリ。
とりあえずオムライスを一口スプーンですくって食べてみる。
俺は素直に感想を言った。
「うん。美味いよ。」
すると、彼女は不安そうだった表情をパッと明るくさせて。
「よかった!ちょっと不安だったんですよね~」
と呟いた。
そして、いただきます、と彼女自身も言いつつスプーンに手を伸ばしていたのだが…。
そのまま、何故か動きを止めてしまった。
「…食べないのか?」
「………えっと、実は。ちょっと…舌がヒリヒリしてまして。」
なんて、予想外のことを言う。
「…何故。」
問いかけると、彼女は少し恥ずかしそうに俯いてから…。
「…この家にある調味料が…見たことないものばかりで、英語表記だし…何なのか分からなくて…片っ端からちょっとずつ味見してみたんです」
そしたら…めちゃめちゃ辛いのに当たりまして!
と、その時を思い出したのか辛そうな顔で言ってくるもんだから…
「はは、あははははっ…」
つい、面白くて。
彼女には申し訳ないが、盛大に笑ってしまった。