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キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第3章 episode.3  やさしい世界





「……ああ。アンソニー、悪い」
「ん?」
「やはり今日は他に心配事があるから、帰らせてもらってもいいか」

そう言いながら、そっと立ち上がる。
直ぐさま放てるようにと手にしていたライフルを、サッと片付けながら。

「あ、ああ…珍しいな?シュウ。お前がターゲット以上の心配事なんて」

アンソニーは俺のことを不思議そうに見上げながら、彼自身が持参していたライフルバックの中身を取り出していた。
彼もFBIの中では、なかなか腕の立つスナイパー。
任せても、平気だろう。そう思える彼だからこそこんな風に立ち去れるのだがな。


「…まあ、なんだ。…実は。子猫を拾ってな。」
「子猫…?」
「俺の為にメシを作ってくれると言った、子猫だ」

俺の言葉に、なんとなく意味を察したのか。
アンソニーはヒュウ、と小さく口笛を鳴らして。

「帰国早々とは。やるな、色男」

そう、嫌味をこぼしつつ。

「連れ込んだのか?」
「…何だって良いだろう」
「ははは。帰ってやれよ。シュウがターゲット以上に気にする女なんて珍しいこともあるもんだ」

…確かに。
いや、だが…これは特殊なケースだろう。

あくまで、海外で…行き場も無く言葉も話せず、途方に暮れている女性をたまたま助けた。それだけだ。
それ以上でも、それ以下でもない…。

家に置くに当たり、俺も一応FBIとして警戒心はある方なので。
彼女がシャワーを浴びている間に、申し訳ないがこっそりパスポートを見させてもらった。
そこから、個人情報を軽く確認させてもらい。
置いても問題ない人物だと判断したから置いているし。
そこで年齢も知って、そこそこ大人だから一人にしておいたって問題ないとは分かっているものの。
彼女…ユリに対しては、少しか弱くて儚げな印象がどうしてもあって。

なんだか放っておけない、と…思ってしまうんだよな。



「…とにかく、俺はいったん帰る。また何か動きがあれば連絡してくれ」
「ああ。子猫ちゃんによろしくな~」

ひらひらと手を振るアンソニーを置いて、俺はうちに帰った。



帰る道中、スマホでユリに「今から帰る」と一言メッセージを入れてから。





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