第3章 episode.3 やさしい世界
「あ、ユリ」
「はい?」
「スマホを出せ。」
「え?」
俺も自分のスマートフォンを取り出しながら言う。
「少しの間だが…俺たち、一緒に暮らすのに連絡先を知らないだろう。」
「ああ…はい。確かにそうですね」
ユリもスカートのポケットからスマホを取り出して。
本名の出ない、SNSのアプリ上ではあるが、連絡先を交換した。
「何か困ったことがあれば、仕事中でもメッセージくらいなら見られるから。あと、俺も帰る時とかは連絡する。」
「はい。わかりました。」
それから…
「地図のアプリ出せるか」
「え?っと…はい。」
地図のアプリの画面を出した彼女のスマホに手を伸ばす。
「いいか、ここと…ここ。」
何カ所か、ピンを立てて。
「食材や日用品。近くで買い物に出るならこの辺がおすすめだ。」
どこも徒歩5分圏内の場所を教える。
…適当にふらふら歩いて道に迷われては困るからな。
「わぁ、ありがとうございます。昼間に行ってみますね!」
「迷子になるなよ。あと、言葉。話せないなら翻訳アプリでも入れておけ。ないよりマシだろう」
「ああ、なるほど。」
「それと…暖かくして出かけろ。外は冷えるからな」
そう言った俺の言葉に、何故か彼女はクスッと笑う。
なんだ?首を傾げて彼女を見れば…。
「ふふ。シュウさんってお兄ちゃん、って感じ。案外、見かけによらず世話焼きですよね」
と、言った。
見かけによらず、とは何だ。…というのはまぁ…置いておいて。
うん…まあ。これくらい言ってもいいか。
「…一応、3人兄弟の長男だ」
「え!やっぱり??わー!そうだと思ってたんですよね!え、妹さんですか?弟さんですか?」
「どちらもだ。」
へ~!!と目を輝かせるユリ。
なんてこと無い会話に花を咲かせて…。楽しそうにしているのが…普段非日常な生活をしている俺には久々な感覚で。
なんだか調子が狂うな。なんて思ったりした。