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キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第3章 episode.3  やさしい世界






「今日はどうやって過ごす?俺は仕事で日中は居ないが」

二人でダイニングを囲んで、朝食を食べているときに尋ねた。

彼女は悩んだ様子も見せずに答える。

「昨日、シュウさんが言っていたこと、します!」

…俺が昨日言ったこと…?
何か言ったか…?

俺が何のことだかわからないとばかりに口を閉ざしてしまったので、彼女が思い出させるように言う。

「ごはんです、ご・は・ん」
「…ああ、メシでも作ってくれって言ったやつか」
「はい!」

意気込むように、やる気に満ちた瞳。

…あれは、例えばの話で。
別にメシを作れと強制したかったワケではないのだが。
真に受けてしまった様だな…。

「色々考えてたんですけど。この10日間…っていっても、あと9日ですけど。なにしようって。」
「ああ」
「助けてくれたシュウさんに、感謝の気持ちを伝える10日間にしようって思ったんです」

そう言って笑う。
昨日、夜も眠れない程の辛いことがあった彼女が、咲いたばかりの花のように明るく笑っていた。

…すまん。弱々しいなんて思って。
君は実は強い子なのかもしれないな。先程まで思っていた事は撤回しよう。
心の中で思った。

「そんなこと思わずに、せっかくだから自分の為に時間を使って良いんだぞ。」

元気になったのなら。
近くを観光して回ったり、現地のグルメを巡ったり。

「いいえ。私、シュウさんに本当に感謝しているんです。だから、させてください。私がしたいんです」
「別に止めはせんが…」

というより。
止めてもムダそうだな。
目の前でやる気に満ちあふれた瞳で見つめてくる彼女を見ていたら、そう思えて。

これ以上止めはしなかった。


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