第3章 episode.3 やさしい世界
翌朝。
「ん…」
朝日を感じて目を覚ます。
何時だ…
枕元の時計を確認しようと重い瞼を開けば。
「わっ」
丁度、同じように目を開けたのだろうユリとパチリと目が合った。
結局同じベッドで寝てしまったのだが…そんなことを知らない彼女は相当びっくりしたらしく、目をまん丸に見開いて、頬を一瞬で赤く染めて飛び起きた。
「えっ、ええっ…なっ」
あたふたと慌てている。
「…すまん、きちんと眠るのを見守っているうちに俺も眠くなってしまって」
「え、あ…そ、そうですか…び、びっくりした」
「悪いな。だが何もしていないから安心しろ」
「そ、それはまぁ…大丈夫なんですけど」
いや。大丈夫じゃないんだがな。
普通に考えて、同じベッドで出会ったばかりの男が勝手に寝ていたら、文句の一つも言うべきだろう。
いくら事情があったって。
…警戒心が全くないな。
大丈夫か?この子は…
色々な意味で心配になった。
「…え、っと…昨日はすみませんでした。本当に…ありがとうございました」
「気にするな。それより…少しは元気になったか?」
時差や移動で疲れた体は…と、傷ついた心は、という2つの意味を込めて尋ねた。
彼女は、小さく微笑んで。はい、と呟きながら頷く。
…一晩寝て、少しはすっきりしたようだな。
よかった。正直なところ、10日間ずっと落ち込んでズッシリと暗い雰囲気で居られたらどうしようかと思っていた。
どうやら、気持ちの切り替えは早いタイプのようだな。
「朝食にしよう」
言いながら、立ち上がる。
彼女も、釣られるようにベッドから出て。
着替えや、顔を洗ったりとそれぞれ朝の身支度を調えた。
女性は大変だな。
彼女がしばらく洗面所に籠もって朝の支度を調えている間に、簡単な朝食を作り、コーヒーを淹れて待った。
30分ほど経って、ようやくリビングに姿を現した彼女は、うっすらと化粧まで済ませていた。
流石に出会ったばかりの男の前で素顔で居られるわけではないらしい。
寝癖がきちんと直っているか気にしているように、時折髪に触れる姿を見て少し笑みがこぼれた。
その髪の感触を俺は知っている。
それがなんだか不思議な気持ちがして。