第3章 episode.3 やさしい世界
episode.3
やさしい世界
(Shuichi side)
「…やっと寝たか」
ふう、と息をついた。
目の前でようやく寝息を立て始めた寝顔を見つめる。
先程までうなされていた、女性…ユリ。
か細くて…どう見たって普通の女性。
こう言ってしまうのは失礼だろうが…男に振られたというだけで、涙を流して、夜も満足に寝付けなくなるような。
そんな…弱々しい女性。
「忘れていたな…」
こんな普通の女性と接するのが久々過ぎて。
女とは弱い生き物なのだということを。
そもそも俺の周りの女が強すぎるのか、と。
母や職場の女性を思い出しながら思った。
自分の身も守れない様な、ごく普通の女性とこうして一緒に暮らすのは初めてなのではないだろうか。
命のやりとりなんて、当然したことはないだろうし。
今まで平和な世界で、裏の世界など一ミリも踏み入れずに生きてきたような顔をしている。
いや、俺が勝手にそう思っただけだから…実際そうかどうかは知らんが。
…俺と関わることで、知らなくてもよかった世界を知ってしまわないように…たったの10日間ではあるが、気をつけなければならないな。
そう思った。
落ち着かせるため。と思って思わずしたのだが…ふわふわと柔らかい彼女の髪を撫でていると、なんだか心地良い気がした。
だんだんと、俺にまで眠気が…。
…俺も、寝るか。と思ったが。
頭を撫でているこの手を離したら…また彼女は起きてしまわないだろうか。とも思えて。
別のベッドで寝ようかと思っていたのだが…
そっと、そのまま彼女の隣に横になった。
少しだけ申し訳ない気もしたが、まあ…下心とかはなく、普通に心配しての事だったので。
「すまん…」
俺も移動や仕事で疲れていてな。
少し考えるのが億劫になっていたので。
そのまま眠りについた。