第2章 episode.2 ポトフ
桃の香りがするハンドクリーム…。
何でそんな女性らしい代物を持っているんだろう。
コワモテでぶっきらぼうなシュウさんには…申し訳ないけど全く似合わなくて。
疑問に思いながらも手のひらに広げた。
「女性は…アロマとか、いい香りのするものが好きだろう」
彼はそう言いながら、暗がりの中私の様子を伺うように見つめてきた。
確かに…
「そう、ですね…」
「こんなもので気持ちが落ち着くかはわからないが…すまん。こんなことしか浮かばなくてな…」
「え、あ…いや、ありがとうございます。…その気持ちが嬉しいです」
正直ちょっと…いや、結構。
こうして寄り添ってくれるだけでとても嬉しかった。
1人の心細さが、少しだけど癒されていくような気がしていた。
「…なんで桃の香りのハンドクリームなんて持ってるんですか?」
「ああ…出先で適当に選んで買ったらこの香りだったんだ。…俺は手先を使う仕事をしていてな。指先の感覚が少しでも狂うと嫌だから、乾燥している時期は少し気を付けている」
「へえ…」
なんのお仕事をしているか…までは聞かなかった。
そこまでの関係じゃない。
でも、桃の香りがする女性らしいハンドクリームを間違えて買ってしまって持て余している…という一面は知れたかな。
「気持ちは落ち着いたか」
シュウさんが、今まで以上に優しい声色でそう言った。
…低くて口調も荒っぽいのに…精一杯の優しさを向けてくれていることがわかって。
…なんか…なんだろう、胸の奥がぎゅうっと鳴ったような気がした。途端に、鼻の奥がツンと熱くなって。
「う〜……」
なんでだろう。泣きそう。
もう、遅かった。
涙が一雫、頬を伝っていった。
せっかく落ち着いたはずの私が再び涙をこぼし始めてしまって。シュウさんは慌てたような声を上げた。
「お、おい…」
「…うっ」
「おい、なぜ泣く。」
「だって…シュウさんが、っ…」
そう。
涙が溢れてきた理由は多分。
「…シュウさんが優しいから…っ」
私のその言葉を聞いて、彼は少しびっくりしたような顔をして。
「俺のせいか、おい、泣くな。」
彼は戸惑いがちに、手を伸ばしてくる。
そして、そっと私の目元に触れて。
優しく涙が溢れた目元を拭われた。
その手つきがあまりに優しくて。体温が心地良すぎて。
「うう〜〜…っ」
余計、涙腺が緩む。