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キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第2章 episode.2  ポトフ





「おい、しっかりしろ」

先ほどから聴こえていた声の方を見る。
暗がりの中、見えたのは…
ベッドに腰掛けて、眠っている私を覗き込むようにしている…

「しゅう…さん…?」

知り会ったばかりの…彼だった。



「…うなされていたぞ。」

そう言ってシュウさんは、視線を自分の手元に落とす。
私もシュウさんの視線を辿って彼の手元を見る…
そこには…ガッチリと彼の左手を握りしめている私の両手があって…

「っ!!ご、ごめんなさいっ」

慌てて手を離した。

「…いや。いいんだが。すまん、どうしようか迷ったんだが…あまりに苦しそうだったんで、背をさすっていたら掴まれてな」
「あ、え…そう…なんですか…ぜ、全然覚えてないです…」

てか…うなされてたんだ…私…
それで、寝ながらも息が苦しいと思っていたんだ…


「大丈夫か」

シュウさんが、優しく尋ねてくる。
私はそっと頷いて、呼吸を整えるように深呼吸をした。

「ストレスだろう。色々あったろうし、環境が急に変わったりするとなりやすい」
「…はい…そうかも…」

だいぶ落ち着いた息をふう、と吐き出して。


「眠れそうか」

本当にお兄ちゃんみたいな優しい声で言われた。

私は口籠もる。
…正直、あまり寝られそうにない。
体はとても疲れているのに。

なんだか心にぽっかりと穴が空いたようで。


「…不安…です」

思わずポロリと溢れる本音。
すると、シュウさんは少し考えた様子の後。

「…少し待て。」

そう言って、寝室を出て行った。
急にシンとした、広い部屋に不安が増しながら待っていれば…

シュウさんが程なくして戻ってきた。
手に何かを持っている。

「手を出せ」

彼はベッドサイドに腰掛けて、そう言った。
私は言われるがまま、ゆっくりと手を差し出した。
私の手のひらに、シュウさんが手にした何かを近付ける。
暗がりでよくわからなかったけど…小さなチューブ型の容器に見えた。

「?」

シュウさんは、そのまま何かを私の手に出した。
クリームみたいな…

「手に広げて」

言われるがまま…私は手に乗せられたそれを両手で揉み込んで広げた。

途端に広がる甘くてフルーティな香り。


「桃の匂い…」
「ただのハンドクリームだよ」


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