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キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第2章 episode.2  ポトフ







…見知らぬ地で、初対面の男性宅で寝るなんて…とっても心細い。

その上、とんでもなく辛いことがあった。

ベッドの中で、彼と別れた時のことを思い出すと泣きそうになる。

忘れたいけれど…忘れられなくて。
そっと涙をこぼした。




__________



なかなか寝付けないな…。

目は瞑って、ウトウトしてはいるんだけど…
今日起きた辛いことが脳裏を過ぎったり…ふわふわと半分夢の中にいながら、半分起きているような不思議な感覚でいた。

ベッドに入ってどれくらい経ったんだろう…
1時間くらい…?
実際目を瞑っているのでよくわからないけど…結構経っている気がする。
相変わらずふわふわと曖昧な意識の中…なぜだか息が苦しくなってきた。寝ているはずなのに、空気が薄いような、そんな感覚がする。
たくさん走った後のような息苦しさ。

その時。

…ふわりと僅かにタバコの香りがしたと思ったら、背中に何かが触れてきたような感触がする。
あたたかい…手?みたいな感じの何か。
それは、そっと上下に動いて。
私を背を慰めるように動いた。
なんだか、その温もりがとても心地よくて。
私は思わず手を伸ばしてその温もりを掴んで手繰り寄せた。



「___ぃ、__おい、」

…声?
なんだか重低音な声が、耳元でうっすらと響いた。



「おい、大丈夫か」


低い声がはっきりと耳に入ってきた時。
私はバチっと目が覚めた。



「はあ…はぁ…っ」

なぜだかわからないけれど、目が覚めた私の呼吸は荒くて。
慌てて辺りを見渡した。


えっと…ここは…

この薄暗い部屋は…確か。




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