第2章 episode.2 ポトフ
「え、っと…」
恐る恐る、寝室を覗き込めば。
シュウさんはベッドの上におらず…ベッドの足元をガチャガチャと音を立てて触っていた。
「…シュウさん?」
「面倒だからこの手は使いたくなかったんだが。」
シュウさんは、ガコン、と音を立ててベッドの下を引き出しのように引っ張る。
「ユリ、君は世話になりっぱなしは嫌で、俺のベッドで寝るのは居心地が悪い。そして俺は女性をほったらかして自分だけベッドで寝るのは気が引ける。だったら、お互いベッドで寝るしか無いんじゃないのか」
と言って、彼が見つめる先にあるのは…
ダブルベットの下からシングルサイズ程度の予備ベッドが出てきていた。ちなみにマットレスはなく。
彼はため息をついてから、今度はクローゼットの中から少し薄手の折りたたみマットレスを取り出してそこへ敷いた。
それから、クローゼットの引き出しの中から真っ白なシーツを取り出して。
バサリと広げた。
「反対側を頼む」
声をかけられて、慌てて彼が広げたシーツの反対側を持った。
2人で予備のベッドにシーツを掛けて…。
「これでお互いベッドで寝られるだろう」
「なるほど…。」
まあ、確かに。
これなら、別々のベッドで…寝れるね。
でも、ベッドは別とはいえ…同じ部屋で寝るのは少し緊張してしまうな。
うーん…寝付けるかな。
でも仕方ないよね、親戚のお兄さん、くらいに思えばいけるよね。
いとこのお兄ちゃん、みたいな?と自分に言い聞かせる。
なんにせよ…
これ以上わがままを言いたくは…なかった。
「先に寝ていろ。俺は少し仕事の資料に目を通してから寝る。広い方で寝るんだぞ。」
「えっ…私なんか狭い方で……」
本当に私なんか、狭い方の即席ベッドでいい、と言おうとしたんだけど。
シュウさんが、私の言おうとしたことを察したのか、緑色の鋭い瞳を細めてジトっと見てきたので思わず口籠もる。
…うう。そうだよね。
あれやこれやと遠慮されて、それはそれで面倒臭いよね。
「…わ、わかりました…」
「本当に遠慮なんかしなくていいからな」
「は、はい…なんか本当に…何から何までありがとうございます。…おやすみなさい。」
「ああ。おやすみ。」
そっと…寝室から出ていく広い背中を見届けてから。
私は言われた通りに広い方のベッドに入った。