第2章 episode.2 ポトフ
シュウさん以外の住人は居ないことを知り、ホッと肩の力を抜いた時、コンソメのいい香りがしたかと思えば…。
目の前にスープだろう器がコトリと置かれた。
「ポトフだ。」
…うわあ。美味しそう。
「すまない。君がシャワーを浴びている間にできたことはこれだけだ。俺も今日帰国したばかりで、色々と揃えられなかったしな」
ああ、食材は昨夜、こちらに住んでいる職場の仲間が掃除をしにくるついでに事前に買い置きしておいてくれたものだ。安心しろ。と言いながら、キッチンに戻って行く。
「えっ…作ってくれたんですか?」
「ああ。」
「…ありがとうございます。」
凄いな…いい人な上に料理までできちゃうんだ…
「いただきます」
小さく呟いて、一口食べた私を見て…シュウさんはフッと僅かに笑った。
……ポトフはまるで、ズタボロになった私の心に染み込んでくるかのように、あたたかくて。
優しい味がした。
「俺もシャワーを浴びてくる。食べ終わったら食器だけシンクに下げておいてくれ」
そう言って、彼はシャワールームに向かっていった。
…なんとなく、そっと息を潜めて。微かに聞こえるシャワーの音に耳をすませた。
不思議な感覚。
誰かと一緒に過ごすなんて久しぶりだな。
大学を出て就職をして、一人暮らしをし始めてからもうどれくらいになるだろう。もう…4年ぐらいになるのかな?
彼氏…いや、元彼……とは、ずっと海外暮らしの超遠距離恋愛だったので。
本当に久しぶりの感覚だった。
なんだかんだ言って…アメリカについてからずーっとまともな食事をしていなかったので。ポトフはペロリと平らげてしまった。
言われた通りシンクに器を置きにいって。
…要領がわかれば、片付けまでしてしまいたかったんだけど。
でも、流石に他人の家…勝手に手をつけるのも申し訳ないしな…と戸惑いながらキッチンに立ち尽くしていると…
「食べられたか」
ガシガシとタオルで頭を拭きながら、ルームウエアに身を包んだシュウさんが戻ってきた。
「あっ、ありがとうございました!…すごく美味しかったです。」
「そうか。それならよかった。」
シュウさんはキッチンで立ち尽くす私のそばにやってきて…片付けはもういいからとりあえず今夜は歯を磨いて寝ろ。と言う。