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キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第1章 episode.1  重なる偶然





「飛行機…乗る便を変えてもらえるように…航空会社に問い合わせてみます…できるだけ早く日本に帰ります。」
「…チケットはあるか」

コクリ、と頷く彼女に向かって手を伸ばす。

「見せてみろ。君は海外は初めてなんだろう?俺が確認してやる」
「あ、ありがとうございます…」

受け取った航空券を確認する。

「…んー…。難しいだろうな。ここの航空会社は変更が効かないで有名だ」
「えっ…そうなんですか…あ、でも確かに、チケットを取ってくれた旅行会社がそんなような事を言ってた気もします…ど、どうしよう…」

ふう、と思わず二人揃ってため息をついた。
そしてまた、再び泣き出しそうな顔をする彼女を見て俺はもう一度ため息をついて…。

「約束をしてもらう。外出するなら行き先と帰る時間は必ず俺に言うこと。それから、奥の書斎には絶対に入るな。…あとタバコの匂いは我慢してくれ」
「…は、い…?え?」

突然俺が言い出したことが理解できないとばかりに驚いた顔をしている彼女に向かって。


「10日間、ここに置いてやる。」

「…えっ……ええっ!?」

目をまんまるに見開いた彼女は、慌ててワチャワチャと手を動かしながら。

「いっ、いいですよそんなっ…今夜だけならともかく!…どこかホテルとりま…」
「この辺りのホテルはいつだって満室だ。急に取れるところなんてないぞ。」

彼女の言葉を遮るように伝える。

「君は土地勘もないし、…言葉は?」
「……学校で習った…程度しか」
「それでは通用せんよ。言葉も話せない日本人女性がひとりで滞在できるような街じゃないさ。君が思っている以上にこの辺りは物騒だしな」

俺の少し厳しい言葉に、彼女はしょんぼりと俯いた。



「…これしかないだろう。安心しろ。取って食いやしないさ」
「……………。」

しばらく悩んだような顔で何も言わなくなってしまったが…。

数分後、彼女はようやく俯いた顔を上げて俺と目を合わせた。



「…宜しく…お願いします。」
「ああ。こちらこそ」



こうして…。


偶然が重なって…俺たちの通りすがりの出会いは不思議な縁に繋がった。



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