第9章 episode.9 君が好きだよ。
「ごめんなさい…私のせいで…」
「君のせいではないさ。自分を責めるな。」
「でも…」
「いいんだ。確かに疲れてないといえば嘘になるが、別に苦には感じてないから」
そう言いながら、俺は彼女の柔らかい髪に指を通す。
「ありがとうございます…シュウさん…」
「…ん。」
ゆっくりと髪を撫でてやると、ホワホワと幸せそうに微笑みながら、ユリがとんでもないことを口にした。
「んふふ…これ好きです。シュウさんに…頭なでなでしてもらうの…」
あくまで俺の手が心地いい、ということだろうが…
俺を、という訳ではなくとも。
好きです、なんて言われたら…今まで以上に胸がぎゅっと締め付けられるような感覚がした。
「シュウさんの手…おっきくて……あったかくて……指先が、お顔に似合わず繊細で……」
「顔に似合わずとは何だ。失礼な」
「…えへへ、ごめんなさい。でも…初めて会った時は怖い人かと思ってましたよ」
寝ぼけ半分だな。ウトウトしながら、普段なら口を噤んでいるであろうことをアッサリと口走っている様子だった。
声もボソボソとしていて、今にも眠りそうな声色だ。
「…今は?」
「今…?は…うーん……優しくて…かっこいい…かな…」
…先程から彼女は…。
俺の心の内を知ってか知らずか、浮き足立つようなことをスルスルと言ってくれる…
俺の理性があとほんの少し弱かったら、襲っていたかもしれん。
まあ、とは言え…。かっこいいと言われたのは素直に嬉しいが、必ずしも異性として意識している上での感情かどうかはわからない。
勘違いするな…俺。と必死に自分を押さえ込んだ。
「そういうこと、誰にでも言うなよ」
「…ふえ…?えっと…私…何て言いましたっけ…」
…やれやれ。
半分寝ているようだな。