【WIND BREAKER:®️指定】My friend
第3章 私だけの貴方
「どこ行くんだ!!」
「クリスマス位いいじゃん。」
怒鳴るいつきの父親に向かって、十亀はニッコリ笑った。
無邪気に笑って、部屋からコートを着てきたいつきを見る十亀の表情にいつきの父親はもう何も言わなかった。
十亀がいつきを好きな事は、もうずっと前から知っている。
『… いつきと一緒に行ったらどうだ?』
そう言って渡したプールのチケット。
十亀は何処か気乗りしなかったけど、何を思い出したのか、急にお小遣いが足りないと言った。
その十亀の顔を見て、彼がいつきの為に何か考えているとすぐに分かった。
だけど、どうやらその夏は、2人ともいつも通り過ごして、何処かに行った話は聞かなかった。
そう言う年頃だからと、いつきの父親は2人を見守っていた。
『おじさん…繁忙期店手伝う…。』
クリスマスが近くなった頃に十亀はいつきの父親にそう言った。
相変わらずオレンジのスカジャンは来ていたけど、そう言ってきた十亀の顔は、昔と変わらない。
『ちょうど腰が痛くなる時期でな…。』
『えー…まだまだ頑張ってよぉ…。』
いつきの父親が運ぼうとしていたビール樽を受け取って、十亀がトラックに詰め込みをする。
何も言わなくても、当たり前の様に十亀はこの店の手伝いをこなす。
『おじさんまで倒れたら、いつき悲しむじゃん…。』
トラックのビール樽を見つめて、十亀が静かに言った。
その時の十亀の顔と、笑っていつきを外に連れ出す十亀の顔が重なった。
いつもこうして、十亀はいつきの事を考える。
それが分かっているから、いつきの父親は、もう2人を止めなかった。