【WIND BREAKER:®️指定】My friend
第4章 ®️独り占め出来ない
十亀の前では梅宮を思い。
梅宮の前では十亀を思い涙する。
グチャグチャな自分の感情に、涙が溢れてきても、この腕を受け入れるのは必然だった。
泣いているいつきを抱き締めた。
せめて泣かせた理由が自分なら、宥める言葉もかけられたかも知らない。
だけど目の前で泣いているいつきは、どうやら自分の為に泣いている様では無かった。
抱き締められている梅宮の腕を掴みながら、いつきはやっと十亀とはもう戻れないと理解した。
何処かで十亀がまた家に来ると思っていた。
でもこの2ヶ月、十亀はもう店にも姿を見せていない。
いつきはあの十亀を突き放して、この腕を掴むと決めていたのだ。
決めていたのに、こうして十亀がもう側にいない事に涙を流す。
梅宮でも埋められないこの胸の痛みは、きっと時間が解決してくれると分かっている。
梅宮で痛みを和らげる事もしてはいけない。
十亀が傷付いた分、自分も彼の為に涙を流さなくては、誰が彼の気持ちを汲んでくれるのだろう。
この胸の痛みが、梅宮で埋まらなくて良かった。
彼は唯一無二のいつきの幼馴染で。
いつきの全てだった。
「……店にバイトを雇おうと思うんだ。」
花壇に植えたチューリップが咲いて、梅宮が中学を卒業した頃、いつきの父親はボソッと言った。
「お前も今年受験だし、店の手伝いばかり出来ないだろう…。」
いつきは父親の言葉に顔を俯かせた。
本当は…、十亀がもう来ないといつきの父親は分かったのだろう。
「……うん…助かる…。」
自分では重たいビールの樽は持たない。
いつも簡単に持ち上げる十亀の姿が目に浮かんだ。
そうして道を違えた私達は、中学3年生になった。
『生い立ち編』第一部 ー完ー