【WIND BREAKER:®️指定】My friend
第3章 私だけの貴方
まるで、別人と居るようだった。
顔は確かにずっと過ごして来た十亀なのに、目の前の男の人は全く違う笑顔で自分を見ている。
いつから?
いつからそんな風に私を見ていたの?
全然十亀の気持ちに気付かなくて、無邪気に笑い合える日はとうに過ぎている。
今は、この笑顔に応えるか。
それともこの笑顔を手放すか。
優しかった幼馴染は、その2択しか与えてくれなさそうだ。
「…条…私…。」
いつきの目が悲しそうな顔をすると、十亀はいつきに触れていた手を離した。
そうすると、固まっていたいつきの体から力が抜ける。
そんないつきの動向に、十亀は苛立ちを覚える。
一体誰なのだろう。
いつきが好きだと言う男は。
その男は自分以上にいつきを分かっているのだろうか。
自分以上にいつきのそばに居て、いつきを笑顔に出来るのだろうか。
十亀はそれだけ考えて、拳を握った。
だけど今は、いつきの顔を曇らせているのはどうやら自分らしい。
いつきの希望通り、幼馴染として側に居て、変わらず馬鹿な話をしていれば、いつきの笑顔は戻るだろか。
それが分かっていても、到底元の関係には戻れそうもない。
分かっているのに、望んだ関係にはほど遠くて、十亀はその日それ以上いつきに触れることが出来なかった。