【WIND BREAKER:®️指定】My friend
第2章 幼馴染は殻を脱ぐ
ふとした瞬間にいつきが思い出される。
そしてその後は、どうしても会いたくなる気持ちが十亀の全身を覆って、フラッとやっぱりいつきの家に向かう。
店に入ってまずいつきの父親が十亀の格好を見て顔を顰めた。
オレンジ色のスカジャンがこの飲屋街でどの様に思われているか、十亀はもう知っていた。
そのスカジャンを着たままこのお店に入る事が、飲屋街でどの様に言われるか。
そんな事を考えていない訳では無かった。
だけど、今の自分はこの姿の自分なんだ。
そんな思いで十亀は店の中に入って行く。
本当は知っていた。
いつきの父親もいつきも、オレンジ色のスカジャンを着た位で自分を遠ざける事はしないと。
それがとても深い愛情と分かっていながら、彼らの目線を無視する自分に、十亀は胸を痛める。
そして久しぶりに見るいつきが目に入り。
そんな小さな痛みはすぐに無くなる。
ああ…やっぱり。
自分にはいつきしか居ないのだ。
いつきしか知らない世界に何度もうんざりしても、すぐにその世界に染まってしまう。
これが恋だと言うなら、随分と業の深いモノだと十亀は思った。
まだ兎耳山と過ごす暴力的な世界の方が、理にかなって爽やかだと思える位に、いつきは十亀にとって絶対的な世界感だった。
そんないつきが自分以外に好きな男が居ると。
そう知った時の喪失感は誰も咎められないと思った。
十亀は初めていつきの体に触れた。
ずっと触れたかった体を抱き締めてキスをする瞬間は、今まで感じた事の無い高揚感を十亀に与えた。