【WIND BREAKER:®️指定】My friend
第2章 幼馴染は殻を脱ぐ
怒りを他人にぶつける行為は、思いの外十亀の気持ちを軽くした。
殴り倒して、動かなくなった男達を見下ろして、十亀はとてもスッキリとした気持ちになった。
まだアドレナリンが流れていたのだろう。
握っている拳は震えている。
そんな時に頭上から声がした。
『君強いねえ。』
その場に不釣り合いな無邪気な声に、十亀はすぐにその声の主に目をやった。
一瞬だけ見えたいつきを通り越して、十亀はもう兎耳山しか見えなかった。
軽い身のこなしで自分に近付いてくる兎耳山に警戒しつつも、彼の放つ不思議な雰囲気に、先程までの怒りが消される様だった。
グイグイと話しかけてくる兎耳山に押されながらも、十亀は掴まれた兎耳山の腕を払わなかった。
ずっといつきしか知らなかった世界が一瞬で変わった。
その後ろで、いつきがどんな顔をしているか気が付いていた。
だけど、兎耳山が見せてくれる世界に、十亀は一瞬で呑み込まれていった。
人と一緒に居て、不快だと感じていた時間が嘘の様に。
朝起きたら、いつきをまず思い出す時間は、自然とオレンジ色のスカジャンを掴む様になっていた。
兎耳山と一緒に外に出て、初めて見る世界はとても心地よくて、ずっと兎耳山の世界に居てもいいと思えた位だった。
だからいつきに会いに行かなくなった理由に、もう子供じみた葛藤はなくなっていた。
逆にこうなればいつきとの距離も良くなるのでは無いか。
そんな事すら期待していた。
だけどやっぱり、いつきの存在はそんな軽いモノでは無かった。