【WIND BREAKER:®️指定】My friend
第2章 幼馴染は殻を脱ぐ
『まぁ何だかんだ、アイツは神社の祭りが夏の1番の思い出だって毎回言うしな。』
そう言う父親の言葉に、十亀は毎年過ごした夏を思い返す。
確かにいつも、夏祭りのいつきが1番の笑顔だ。
十亀は思った。
海やプールで笑ういつきより、夏祭りで隣で笑っているいつきの方がきっと似合っている。
そうして中学最初の夏を一緒に過ごして、2年生になった時に、それは突然訪れた。
いつもの様にキスをしようとしたら、いつきがキスを避けたのだ。
それだけでもショックを受けていたのに、いつきはもう辞めようと十亀に言った。
確かに、同じ気持ちでキスをしていない事は分かっていた。
それでも良かったのは、いつかいつきは自分の気持ちに気が付いてくれて、このキスが意味のあるキスになると信じていたからだ。
なのに結局、いつきの好奇心で許されていたキスは、その役割をもう終えようとしている。
『……何でぇ?……』
とうてい許せる筈もなくて、必死に感情を抑えて聞いたけど、表情は流石に変えられ無かった。
十亀を見たいつきの顔が曇るのを見て、今自分がどんな表情なのか、簡単に想像出来た。
だけど、ここで怒りをぶつけても何の解決にもならないと分かっている。
十亀は我慢していつきから少し離れる事にした。
自分もいつきと会えなくて苦しかったが、十亀は知っている。
こうして会いに行かなかったら、いつきの頭の中は自分の事で一杯だろう。
いつきが凄く悲しみ悩むと分かっていて、十亀はいつきに会いに行かなかった。
自分が今悩んでいる分、いつきも悩めばいい。
そう思っていたからだ。