【WIND BREAKER:®️指定】My friend
第1章 ®️彼は何故堕ちたのか
少し腰を浮かせた十亀が顔を近づけた。
ーあ、これキスだ。
ゆっくりと近付いてきた十亀に、いつきはサッと身を交わした。
「………………。」
十亀はキスを避けられて驚いていた顔でいつきを見た。
「………止めようよ…、もうコレ……。」
小さな声で顔を俯かせていつきは言った。
何故だか凄く胸がドキドキする。
ほんの少しの好意でも断る時はこんなにも気まずいのだと初めて知った。
「………なんでぇ?」
十亀は声を荒げる事なく、声色といつも同じだった。
それにいつきは安心して、十亀の顔を見た。
「……………。」
十亀を見て思わず声を失ったのは、その表情が酷く暗くて、怒っている訳ではないが無表情でいつきを見下ろしていた。
「…条……。」
思わず声が漏れた時に、店の方から父親の呼ぶ声が聞こえた。
「おい!条!手伝ってくれ!」
いつきの父親の声に、十亀は一瞬顔を俯かせると、ゆっくりと立ち上がった。
今から出て行く十亀の後姿姿を見て、いつきは思わず安堵の息を吐いた。
あんな表情の十亀を見た事が無かった。
幼馴染でキスをするのはおかしいでしょう?
もっと簡単にそう伝えられると思っていたのに、十亀の顔を見たら生唾と一緒にその言葉を飲み込んだのだ。
「いつき、店番しててくれ。」
トラックに積み込みが終わった十亀が居間に戻って来ると、いつきは腰を浮かせた。
正直、助かったと思った。
同じ部屋で十亀と一緒に居る事に戸惑いがあったから。