【WIND BREAKER:®️指定】My friend
第1章 ®️彼は何故堕ちたのか
今更十亀のキスを拒んだら、自分達の関係がどう変わるかなんて想像出来なかった。
きっと何も変わらない。
それがいつきの出した答えだったからだ。
『いつきって十亀くんと仲がいいよね。』
ソレは十亀と学校が離れて、しばらくして中学校が一緒になった友達に言われた言葉だった。
『……うん、幼馴染だからね。』
いつきがそう言うと、その子は少し言いづらそうに、いつきの耳元に口を近づけた。
『十亀くんと同じ学校の制服の子と、十亀くんが歩いているの見たから。』
いつきはその口ぶりから、その子が何がいいたいのか分かった。
十亀が自分以外の女の子と一緒にいた。
そんな事は想像も付かないのに、何故かその言葉はスッといつきの中に入って来た。
ああ…、あのキスは練習だったのだろう。
その現実に、いつきは傷付く事も無かった。
同じ年頃の男の子が同じ部屋で過ごしてキスをしてくる。
それは特別な感情が無くても出来る事だと思っていた。
実際にいつきがそんな感覚だった。
十亀が自分にキスをして来ても、それは年頃の男の子の自然な行動に思えたからだ。
だから特段その話を聞いても、何も感じなかった。
少し自分だけが知っている男の子が、他にいってしまっな悲しみだけだった。
そして、その年の夏に十亀が言った言葉をいつきは覚えている。
『おじさんがさぁ、店の手伝いしたら小遣いくれるって。』
へぇいいな。
いつきがいくら店の手伝いをしても、ラムネ瓶1つしか貰えないのに。
それすら、いつも十亀が店の手伝いをした時にラムネ瓶を貰っていたからそのおこぼれに過ぎなかった。