私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第17章 約束
「感謝するのは俺の方だ。それと‥」
私は、はじめの唇に人差し指を当ててその先の言葉を遮った。はじめが言おうとしてる事分かってるよ。‥中途半端な事して傷付けてごめん。って、言うんだよね?
「‥謝るのは無しだよ?」
私の言葉に、少し目を見開き一瞬黙るはじめ。
しかし、すぐにフッ‥と笑って。
「ひまりには、何でも分かっちゃうんだな‥」
そう言いながら、私の手を唇から離して両手で握ってくる。
‥分かるよ。
今、私も同じ事思ってたから。
でも、ずっと変わらないままなんて嫌だったから。
‥初めて貫いた私の意志と我儘。
「謝る必要ないよ。‥全部承知の上で受け入れたのは私なんだから。」
誰のせいでも何でもなくて。
お互いが"好き"って気持ちを優先して‥選んだだけ。あの頃は、まだまだ幼かった。
私は、はじめの左眉の傷跡に手を伸ばしてそっと触れた。
はじめが笑顔を取り戻してくれたのは、もう一度自分を"お兄ちゃん"にしてくれた施設の皆と、この街の皆‥"家族"のおかげ。
だからあの時‥守ることができなかった家族を、今度こそ自分の手で守りたい。
"大切なものを守る"という事が、はじめの中に根付いた強い意志と決意。
"‥オレは、風鈴に行く。風鈴でやりたい事があるんだ。"
中学卒業を目前に控えたある日、はじめからそう告げられた。
風鈴は、有名な不良高校。
この頃は、まだ街の悪と陰の象徴の様な存在で。
そんな所に好き好んで入学する人はまず居なかった。
けれど、はじめは自分が風鈴に行くのは"運命"だと言っていて。
昔、死を選んだ自分を救ってくれた人が風鈴生だった事。施設長の母校である事を話してくれた。
私は黙って、はじめの話を聞いていた。
"‥そっか。でも、椿や柊くん達が一緒なら安心だな。"
"‥ごめん。"
この時に、こうなる事は分かっていたから。
はじめが私の言葉に悲しそうな顔してたの覚えてる。
もうあの時に、謝罪は貰ってるから。
「‥小さい時に一緒に聞いた、はじめのお父さんとお母さんが言ってた話‥覚えてる?」
私の言葉に頷き、口を開くはじめ。
「‥ハートのバケツエネルギーの、話?」
私は微笑んで頷いた。
それは‥ごはんを美味しく食べる為に必要な物のお話。