私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第5章 脱・お姫様1 過去
そんなこんなでポトスを飛び出して数分後。
私は商店街をかなり離れた場所で息苦しさにようやく足を止めた。
呼び掛けるはじめを無視して無我夢中で走ってきたから、自分がいる場所を把握するのも一苦労だ。
「ここどこ‥?」
呼吸を整えてようやく周りを見渡す。
河川敷だった。
だいぶ街外れに来てしまった。
「今何時だろ‥」
カバンからスマホを取り出してギョっとする。
不在着信50件??
もちろん全部‥はじめから。
罪悪感はあるが、今回ばかりは私も引けない。
黙って飛び出して来てしまったのでとりあえずことはに、"ごめん。お店お願い"とだけメッセージを入れてスマホの電源を切る。
ことは(橘ことは)は、お店を手伝ってくれている16歳の女の子。はじめが実の妹のように可愛いがり溺愛していることはを、1人でお店を切り盛りしていた私に助っ人にと紹介してくれた。今ではすっかり私に懐いてくれて仲良し。
ことはは何かと察しがいいし、お店に残してきたはじめの様子を見れば詳しく説明しなくても理解してくれるだろう。
「どうしようかな‥」
お昼過ぎの土曜日。
今日は、はじめと一緒にお店と商店街の夏祭り用の買い出しに行く予定だった。
最近は騒動も落ち着いていてゆっくり出来るからって聞いて嬉しくて張り切ってオシャレしたのにな。
「自業自得だもん。仕方ないよね。」
私はのんびり散歩も悪くないなと歩き出す。
火照った頬に当たる風が心地いい。
「‥おじいちゃん、いきなり会いに行ったら喜ぶかな?」
ふと、周りが祖父の家に近い事に気付く。
最近、会いに行けてないな。
ー行こう。
そう決めて祖父の家へと向かう事にした私。
祖父の家に向かう道中、ふと道端に咲く花に目がとまった。
視線の先で活き活きと咲き誇る大輪の向日葵(ひまわり)に、笑みが溢れる。
私の名前の由来で‥大好きな花。
「お父さん、お母さん、おばあちゃん。また一つ年を越えられるよ。」
もうすぐ私の誕生日。
すっきりと晴れる夏の青空を笑顔で見上げた私は、遠い空の向こう側にいる大好きな家族に想いを馳せた。