私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第16章 夏休み2
「‥ ひまり」
耳元で聴こえる優しく名前を呼ぶ大好きな声。両手で顔を覆って泣く私の身体が抱きしめてくれたはじめの体温に包み込まれる。
私は、はじめの背中に手を回してしがみついた。
「‥柊から聞いたんだな‥?」
私は黙って頷く。
「‥ごめんな、ひまり。」
そう言ったはじめに、あやすように背中と頭を優しく撫でられる。背中と頭に感じる温もりに少し落ち着き、上手く呼吸が出来ずにいた肺に酸素を吸い込む。
それでも。酸素が足りない‥苦しい。
「‥悲しませたくなかったんだけど、今回は今までの争いとは遥かに危険度が違い過ぎるから。」
‥だから。
「‥少し‥離れよう、って言うんでしょ‥?」
はじめの胸に顔を埋めてようやく口を開いた私の言葉に、抱きしめる腕の力が強くなるから肯定のサインだと分かる。
「守らせて欲しいって言ったけど、今回はきっと‥俺1人じゃ無理だ。」
学校全体と街も巻き込まれるかもしれない、と。柊は、きっと警戒しろって伝えてくれたんだよね。
「‥うん‥分かった。」
私は顔を上げて、はじめを見上げた。
眉を下げて悲しそうな顔で私を見つめるはじめが、親指で私の涙を優しく拭ってくれる。
「今度こそ必ず、決着をつけるから。」
私の目を真っ直ぐに見つめてそう言うはじめに、私は頷いて微笑んだ。
「‥待ってるね。」
そう伝えて、もう一度はじめにしがみついた。
‥決着がつかないまま終わった過去の争いが、私達のいつまでも発展しなかった恋愛の元凶。
無理に我儘言ってごめんね。
私は、私に出来る事をするから。塔に逆戻りも、絶対しない。はじめがいなくても大丈夫になるから。
「‥夏祭りが終わったら‥会えなくなる。」
静かに告げられた最後のデート。
「‥皆と、ね。」
「‥ああ。」
お互いにゆっくり身体を離した後、約束と言って小指を差し出す私。
笑って小指を絡めてくるはじめと指きりをした後‥重なる唇。
キスをしながら、髪の毛をまとめていた飾りをいつの間にかはじめに外されていて、潮風に広がる自分の髪に閉じていた目を開ける私。
ゆっくりと唇を離したはじめに、両頬を包まれ笑顔で告げられた事。
「‥俺も、大好きだ。」