私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第16章 夏休み2
ー私は数日前の稽古の日の事を思い出していた。
少し言いにくそうに、柊が教えてくれた話。
‥近々大きな抗争が起きるかもしれないという事。
はじめが派閥争いや内部の抗争を鎮圧した事により、かつての荒れていた風鈴は街を守る集団へと変わった。風鈴も、街の治安も良くなって平和な日々。
しかし、全員がそれを良く思った訳ではなく。
ボウフウリンが結成されると、自ら風鈴を立ち去った生徒もいたと。それは、はじめが総代になる前に筆頭として在籍していた人物達で。
今、再びかつての下剋上と化していた風鈴を取り戻そうとその人物達が大規模な集団を結成して風鈴を潰そうとしているらしい、と。
街で最近起きていた、小さな事件や争い。その人物達がそれらを全て裏で手引きしていたらしく。実際、新入生の友人や椿のバイト先の子も狙われた。
ジワジワと迫り来る脅威の影。
戦線布告されれば、次に標的になるのは恐らく‥私。
そう、教えてくれた。
はじめの特別になってから、いつかそうなる事は分かっていたから思ったより冷静で。私は静かに柊の話を聞いていた。
一緒に居ても負荷になるだけで役に立たないし、護身術や体術を身に付けて自分で自分を守る努力をしたって出来る事に限界はあるし、大した力もない。
でも。
はじめの側に居たい。一緒に居る、って決めたから。
だから、リスクが高まる事も全部分かっていたけれど少しでも現状を変えたくて‥我儘を押し通した。そのタイミングの良し悪しは関係なく来るべき時が思っていたより早くなっただけ。
黙って聞いている私に、柊はそれ以上何も言ってこなかった。
梅宮からも話があると思うと、最後に言われた。
ここ数日のはじめの言動に、私が薄々感じていた違和感。
ふとした時にいつも難しい顔してたから‥分かってた。
だから。
それによって、はじめがどんな行動に出るのかも分かる。
きっとまた振り出しだね。
何をしてでも君は、私を遠ざけようとするだろうから。
‥だから、今日誘ってくれたんだよね?
繋いだ手を強く握りしめた私は‥ある決意を固めた。