私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第16章 夏休み2
玄関を出て、手を繋いでゆっくり海岸まで歩き出した私達。一歩踏み出した瞬間、まとめて結い上げた髪の後れ毛と浴衣の裾が潮風になびいた。
海が近いから風が強いけれど、涼しく過ごしやすいからか私達の他にも散歩している人の姿。
途中、何組かのカップルともすれ違った。
皆、私達と一緒なのかな?
‥そういえば、この海岸はデートスポットとしても有名だって楡井くんが言ってたっけ。
ふと、そんな話を思い出して隣のはじめをチラリと見る私。
そんな私に気付かず、満点の星空を見上げてにこやかなはじめ。
横顔、綺麗だな‥。
思えば、こうして夜にデートするのは初めて。だから昼間とは違った雰囲気に余計ドキドキする。
はじめは、この場所がそういう所だって知ってるのかな‥?
チラチラと横顔を盗み見しながら煩悩だらけの私。
「‥どうした?」
あまりにもジッと見過ぎていた様で、視線に気付いたはじめが私を見る。
「‥!!ううん、何でもないよ。‥星、綺麗だね!」
‥見とれてました、なんて言える訳ない。慌てて笑って誤魔化す私。
「海岸に着く頃には、月も出そうだな〜」
私がそんな事を考えているとは知らず、楽しそうに空を指差すはじめ。
‥ロマンティックか。
私は、椿の言葉を思い出してフッと笑いながらはじめの指差す空を見上げた。
雲間から漏れる月明かり。
満点の星空の下。
確かにムードはバッチリだが。
私達は、いつだってきっと‥ロマンティックには程遠い。
幼い頃、よく一緒にこうして歩いた。
いつも私の手を引っ張ってくれていたはじめ。
色々な所に沢山連れて行ってくれた。
‥今も変わってないから。一緒に居るだけで充分。
私とはじめにとってのロマンティックはこれ。一緒に、沢山の初めてを見つけて楽しむ事。だから私が思う様な事は、はじめは考えていない。2人で過ごす、色んな時間を大切にしてくれてる。
分かってるけど、いつかは王道のデートもしてみたいなぁ‥なんて。密かにそんな事を考える欲張りな私。
隣を歩くはじめの横顔を見て、私の胸に込み上げた想い。
‥このままずっと、変わらずにいたかった。
きっと。
もうそろそろこんな時間は無くなって。
‥一緒に居られなくなるから。