私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第15章 夏休み
その言葉に、私を見つめる杉下くん。
「率直に言うね。あの頃‥私の事‥嫌いだった?」
杉下くんは、私の言葉に目を見開いて驚いた顔をした後‥もの凄い勢いで首を横に振った。
「え‥?」
その意外な反応に、今度は私が目を見開いた。目の前であたふたしながら、首を横に振り続ける杉下くん。必死に、私に掛ける言葉を探している様で。
「じゃあ、何であの時‥あんな事言ったの‥?」
私が聞くと、ようやく口を開いた。
「‥梅宮さんに悪いと思って‥あの時渡した花‥大切な人に贈る物だって、あの後聞いたから‥」
返って来た予想外の答えに私は、拍子抜けした。
「え‥花って‥、確かピンクの薔薇だったよね‥?」
頷く杉下くん。
ピンクの薔薇の花言葉は"感謝"。花言葉が大好きだった母から聞いた事がある。だから私はあの時、絆創膏の御礼だと分かったのだ。
けれど。
杉下くんは私にそれを贈った後に、誤った情報を聞いて勘違いしてしまっていて。"自分は大変な事をしてしまった"と焦り‥はじめに申し訳ないと思い、変に思われていないかと私を執拗に見てしまったり変な態度を取ってしまっていた、と話してくれた。
「‥そうだったの‥?」
全てを聞いた私が驚くと、激しく頷く杉下くん。
「そっか‥。私、てっきり嫌われてるのかと思ってた‥。」
事実を知った瞬間、一気に気が抜けて笑ってしまう私。
そんな私に、杉下くんは嬉しい言葉をくれた。
「‥ ひまりさんの事、嫌いな人なんて‥風鈴にも‥この街にもいないです。」
真っ直ぐに私の目を見て、そう言ってくれて。
「‥梅宮さんが街を守れって。‥大切なものを。」
私は黙って杉下くんの言葉を聞いていた。
「その‥だから‥梅宮さんの守りたいものが‥俺の守りたいものだから。」
必死に言葉を紡ぐ杉下くん。
「‥梅宮さんが大好きなこの街と、ひまりさんが俺の守りたいもの‥です。」
不器用だけれど、真っ直ぐな彼の言葉に心が温かくなる。
「‥だから、嫌いになんてならないです。‥絶対。」
そう言って、申し訳無さそうに頭を下げて来た。
自分で塔から飛び出す決意をした事は後悔してなかった。でも、いざ飛び出したら不安ばかりで。本当は、皆が掛けてくれる言葉も疑っていた私。だから嬉しかった。
「‥杉下くん、ありがとう。」