私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第15章 夏休み
私が御礼を言うと頭を上げる杉下くん。
「今までの悩みとか不安が全部‥私の思い込みだって分かって凄くスッキリした!」
そう言って立ち上がり、思い切り伸びをして笑顔の私に杉下くんは安心した様子で、少し笑ってくれた。
いつの間にか読書を終えて、野菜の収穫を始めているはじめの元へ向かおうとしてふと大事な事を伝え忘れている事に気付いた私。
‥ピンクの薔薇の花言葉。
「‥あ、そういえば。」
くるっと後ろの杉下くんを振り返り、ニコっと笑う。
「‥‥?」
不思議そうに首を傾げて私を見る杉下くん。
「あのお花の意味‥間違えてなかったよ?」
「‥え?」
恐らく、お店のおばさんにからかわれたんだろう。私もよく利用していたお店の物だったからおばさんの人柄は良く知っている。
無愛想で何を考えているか分からないけれど。根はとても素直ないい子だから。
‥信じちゃったんだね。
「手当ての御礼‥だったんだよね?あのお花の意味は"感謝"なんだよ?」
「‥‥。」
私の言葉に杉下くんは、ようやくお店のおばさんにやられた事に気付き溜息をついた。
「おばさんが言ってたのは嘘だし‥はじめも知らないから。大丈夫だよ。‥ありがとう。」
それだけ伝えて、はじめの元へ向かった。
「お!話、終わったか?」
「うん。」
トマトを収穫するはじめの隣にしゃがむと、そっか!と言って頭をポンポンしてくるはじめ。
私と杉下くんが何を話していたのかは‥きっと、聞いてこない。はじめはそういう人だから。
話したくない事は話さなくていい。聞いて欲しい時に話してくれればいい。
いつも、そう言ってくれるから。
「何か、随分スッキリした顔してるな!」
私の晴れやかな顔を見て、嬉しそうなはじめに微笑んだ。
‥もう不安なんて無いからね。
このはじめの笑顔を見ながら思う事。本当、ここにはいい人達が沢山居るね。
「‥ね、はじめ。」
「ん〜?」
‥楽しそうにトマトを収穫しながら返事をするはじめに、今日改めて思った事を伝えたくなった私の口から出た素直な気持ち。
はじめも。
風鈴のみんなも、この街のみんなも、ここから見える景色も全部。
「‥大好きだよ。」
いつか話す時が来たら聞いてね。
私のこの先を明るい方へ導いてくれた、君にはまだ内緒の‥大切な出会いの話。