私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第15章 夏休み
この時もう一つ気になっていた事がある。
それは、視線と態度。
ふとした時に杉下くんと目が合う事が多くなった。お店に一緒に居る時。私がはじめと会話している時。彼の目つきが鋭いという事もあり、私は段々とそれを敵意の目だと感じる様になってしまって。
極めつけは態度。
視線を感じる様になった頃から何故か距離が出来て、極端に避けられる日もあった。
ーそれなのに。
毎回、見回りは欠かさないしお店の手伝いもしてくれる。そんな杉下くんが何を考えているのか分からなくなっていた。
そんなある日。
急に杉下くんから告げられた、あのクマの事。
"あれは捨てて、忘れて欲しい"
私は困惑していた。
御礼なんかしたくなかったって事‥?
‥私、勘違いしてた?
本当は嫌われてたんだ。
そうだよね、私みたいなお荷物がはじめの隣に居るのは嫌だよね。その分、皆に負担がかかるんだもんね。
そんな事を考えながら呆然とする私に、それだけ告げると去って行ってしまって。
この日以来‥杉下くんと会話する事はなくなった。
毎日、窓から見回りをしている彼の姿を見て。はじめ達と一緒にお店に来る彼に会釈するだけの日々。
それから1年後の春。
風鈴高校に入学した彼は、顔見知りの新入生数名とお店にやって来た。驚く私に、変わらず頭を下げてくる彼。
‥確かめたかった。
あの日、聞けなかった本当の事。
***
「ご馳走様!美味しかったな〜、杉下!」
「‥はい。ひまりさんご馳走様でした。」
そう言って満足気な2人と、空っぽになったお弁当箱。
私はテーブルの上の荷物を片付けて、各々好きな場所で休憩する2人に微笑んだ。
屋上の隅にあるブロックに腰掛けてぼんやりと空を眺める杉下くんと、ソファに座って静かに本を読んでいるはじめ。
私は、心地良い風が吹き抜けるフェンスの近くに居る杉下くんに歩み寄った。
私に気付いて、視線をこちらに向けてくる彼の隣を指差しながら
「‥隣、座ってもいい?」
と聞いた私の言葉に黙って頷くと、少し横にずれてくれる。
ありがとう、と言って隣に座る私。
「‥‥。」
「‥‥。」
お互いに沈黙。
真っ直ぐに前を見たまま、何も喋らない彼に私は意を決して口を開いた。
「あのね、杉下くん。‥ずっと聞きたかった事があるの」