私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第15章 夏休み
いつものように窓からこちらを見ていた彼に気付かれない様に、扉を開けて私は逃げようとした彼を捕まえた。
「この間はありがとね。」
「いえ‥」
窓をチラチラと見ながらしきりに中にいるはじめを気にする彼のその様子に気付き、私は掴んでいた彼の腕を離した。
彼は解放された腕に安堵した様にようやく私を見てくれた。
「お腹空いてない?良かったら何か食べて行って!」
私は扉を開けて、躊躇する彼を店内に誘導した。
鳴り響く扉のベルの音に、店内に居たはじめ達が一斉にこちらを見る。
「お!杉下〜、見回りお疲れさん!」
と、はじめが笑顔で彼に手を振る。
彼は、はじめのその言葉に猫背ぎみだった背筋をシャキッと伸ばして頭を下げる。
‥溢れ出るもの凄い忠誠心。
頭を上げても直立のまま動かない彼をテーブルに座らせて、私はオムライスを出した。
「どうぞ?お店の看板メニューなの!」
私の言葉に、店内にいたはじめ達も口々に彼に食事を促した。
「ひまりのオムライスは美味いぞ〜!!」
「この店が1番だよな!」
そう言う皆の言葉に、躊躇いながらスプーンを手に取る彼。
一口食べた瞬間。
目を見開いた彼は、もの凄い早さでバクバクと食べ始め‥あっという間にお皿が空っぽになった。
「‥どう?」
戸惑いの表情を浮かべる彼に、笑顔でそう聞く私。
「‥美味しかった、です‥」
そう言いながら頭を下げた彼に、嬉しそうなはじめ達。
この日をきっかけに少しずつお店に出入りしてくれる様になって、お互いに慣れて名前で呼び合えるようにもなった。
私は、"杉下くん"。
杉下くんは、"ひまりさん"と呼んでくれた。
時間がある時には花壇の水やりや、店内の掃除まで手伝ってくれて。一緒にいてもそんなに会話はなかったけれど、そんな静かな時間も楽しく過ごしていた。
私も、寡黙な彼に執拗に話しかけたりはしなかったから。店先に置いてあったクマのぬいぐるみの事はこの時、まだ聞けずにいた。というのも、私がその話をしようとすると彼が察知して逃げてしまうからで。
恐らく、助けて貰った時に私が手当てをした御礼なのだろうと思うのだが‥。素直に嬉しかったので私も御礼がしたかった。
ただの御礼なのに、何故そんなに聞かれたくないのか‥その理由が分からなかった。