私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第15章 夏休み
今の子、凄く強かったからきっとそうだ。
そう確信したと同時に、私は走って去って行く少年の腕を掴んだ。
‥さっき助けてくれた時、拳ちょっと擦り剥けて赤くなってたから。
少年は背後から腕を掴まれて、驚いた様に勢いよく振り返る。
「ちょっと待って!」
「‥‥?」
自分の腕を掴む、私の手と顔を交互に見て困惑している。
「ここ、擦り剥けてたから‥」
私は少年の手を取って赤くなっている場所を指差した。
「‥あぁ‥大した事ないんで‥」
そう言って引っ込めようとした手に、勝手に私は鞄にいつも入れている消毒液で消毒をし始める。
「ダメ!バイ菌入ったら大変でしょ?‥よし!これで大丈夫。」
最後に絆創膏を貼って手を離した私の行動に、呆気に取られる少年。
‥彼は暫く沈黙した後。
我に返って急に、顔を赤らめると勢いよく走り去って行ってしまった。
「行っちゃった‥。あ、そういえば‥」
名前‥聞いてないや。
でも、何となく‥また会える気がした。
それから数日後。
お店に不思議な贈り物が届いた。
朝、いつもの様にお店の看板を外に出した時の事。ふと店前の花壇を見ると何かが置いてある事に気付いた。
近寄って見ると‥そこにあったのは小さなクマのぬいぐるみ。ピンク色の薔薇の造花を一輪と、キャンディが入った小袋を抱える可愛いクマに私は微笑んだ。
クマを手に取って周りを見渡すが、辺りには見知った顔のご近所さんしかいない。
‥誰かの忘れ物?
そう思いながら、首を傾げた私の目線の先。
角を曲がって去って行く‥見覚えのある後ろ姿が見えた。
「杉下くん‥?」
この間、はじめから聞いた彼の名前を呟く。
あの日、私を助けてくれたのはやっぱり"狂信者"くんで。
名前は杉下京太郎くん。
私とはじめの関係も知っているらしく、自主的にお店周辺の見回りをしてくれていると言っていた。彼が来年から風鈴高校に入学する事も聞いた。
この間私が杉下くんと会った事は、はじめには内緒にしている。‥危ない目にあったってバレたら怒られるから私は知らないフリをして、そうなんだと言いながらはじめの話を聞いていた。度々お店に訪れる彼は相変わらずお店には入らずに外から見守るスタイル。
そんな彼を私はある日、店内に引きずり込んだ。