私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第15章 夏休み
‥今まではじめに来るなって言われてた理由が何となく分かった。
「ひまり、こっち!」
呆然とする私の手を引っ張って、屋上に誘導するはじめ。
外階段から屋上に向って長い階段を全て登り切り、重たい扉を開けた先。
きちんと手入れされた畑で活き活きと輝く野菜の数々と、小さな手作りのビニールハウス。その中に紛れて、ハンモックやソファ、休憩出来るテーブルや卓球台まで‥とにかく色々置いてある。
「凄い‥」
広大な屋上と菜園に驚く私に、嬉しそうなはじめ。
「ようこそ!俺の菜園と‥お気に入りの場所へ!」
そう言いながら胸を叩いて誇らしげなはじめに、開いた口が塞がらない私。
家庭菜園にハマったって言ってたけど、まさかここまでとは‥と、驚きながらはじめに手を引かれて奥へと進んだ、その時。
‥視界の先で動く何かが見えた。
奥でバシャバシャと、柄杓で畑の野菜に水やりをする長身の人物に気付いたはじめが声を掛ける。
「おはよう杉下!今日も来てくれてありがとな〜!」
声を掛けられて、こちらを振り返った人物。
肩にかかる青い長髪に、鋭い目。
猫背ぎみの長身。
やっぱり杉下くんだ‥。
歩み寄る私達に気付いた彼が頭を下げる。
「‥梅宮さん、ひまりさん、おはようございます。」
低めの挨拶。
「おはよう、杉下くん。久しぶり!」
「‥お久しぶりです。」
そう言って、こちらに会釈して水やりを再開する杉下くん。
最近あまりお店に顔を出さないから心配していた。もともと、人と馴れ合うのが苦手みたいだから仕方がないのかもしれないが。
「‥‥ここの水やり終わったら帰ります。」
私達を気遣う様に、素早く水やりを済ませていく。
「じゃあ俺達はあっちの水やりするか!」
私は、はじめに指差された場所にホースで放水しながら視界の端で黙々と水やりをする杉下くんを見る。
‥私、何か悪い事しちゃったな。
普段はあまり近くに居られないだろうから、きっと杉下くんにとってこの時間は大切で。
慕う人と、楽しく一緒に過ごせる唯一の時間。
それを私が、横から奪ってしまった様で申し訳なくなる。
皆とも仲良くなりたい。
そう思っているけれど私‥皆にどう思われてるんだろう。
突然、押し寄せて来た不安に水やりをする手を止めてはじめと杉下くんを見る私。